外科を続けていくことのむずかしさ
外科医を続けていくことはとても大変なことなんです。手術をすれば必ずリスクがつきまといます。手術中に思わぬトラブルが起きたり、術後もよくなったかどうか心配しています。術後診察で、よくなったと聞くまでは安心できないんです。
私が医者になる前には、外科医の給料は内科医より高かったそうです。ところが、私が医者になったころには同じになり、数年後には5時で帰宅できる内科医と夜の11時まで手術している外科医の給料は同じ、それどころか内科医が内視鏡で穴をあけたあと始末を外科医が夜中まで緊急手術していました。当時、いったん帰宅して呼び出されないと時間外手当が出なかったんです。当時の外科部長が病院と交渉して、時間外が出るようになったそうですが、だいぶ後だったそうです。
十年以上前、手術の診療報酬が変わりだしました。手術件数が少ない病院は全額もらえなくなったのです。それで、病院はどんどん外科を閉鎖していきました。外科医を抱えて、オペ室を維持管理するほうが高くつくようになったからです。なぜそんなことになったのか最近になって初めて知りました。当時、眼科と耳鼻科が手術の報酬が少ないと国に交渉したからだそうです。どうりで今は眼科の手術がかなり高額になっています。
乳がんの手術を頼まれたので、保険点数を調べました。認可を受けている病院なら28万円もらえるものが、認可を受けていなければ6万円だそうです。同じことをしてもそれだけ差をつけられているのです。認可を受けるには、術者の経験年数以外に病院の手術件数が必要なので到底無理ですよ。いくら私の経験が豊富でもそれだけじゃだめなんですもの。
後輩の外科医たちは開業して外科医を捨ててしまいました。がんの手術ができるように指導して独り立ちできるようになったのに、ほとんどが外科医をやめてるんです。20人ぐらいは育てたと思うのに、誰ひとり残っていないんですよ。
大病院では儲かるがんの手術が優先、良性疾患どころか早期がんも後回しです。いったいどうなっていくんでしょうね。