インシュリンが要らなくなりそうです
インシュリン注射で治療中の患者さんがいます。5年ほど前にインシュリンに変わったと話されていました。でも、その時インシュリンじゃないとだめなのか説明がなかったから、自分はインシュリンじゃなくてもいいような気がするとおっしゃっていました。糖尿病になってから、仕事が忙しいために15年ほど放置されていたようです。10年ほど前から、ちゃんと治療をするようになったのですが、入院をきっかけにインシュリンに変わって、今まで続けておられます。
私も、インシュリン開始が早かったのではなかったかと思いました。もしそうだとすれば、自分のインシュリンが残っている可能性があるのです。内服での糖尿病治療でも、行ったんインシュリンに変えてから、内服に戻すと薬の量が減らせる場合があります。糖毒性を切ると言う方法です。それで、今のインシュリン治療が効いているのかどうかを調べるために、糖負荷試験と24時間血糖測定を行いました。
結果は驚くものでした。今行われている強化インシュリン療法は全く聞いていなかったのです。毎食前の注射は、食後血糖の上昇を抑えるはずが、糖負荷試験の直前に売ってもらったにもかかわらず、血糖は300を超えました。また、Cペプタイドを図ると十分内因性のインシュリンが残っていたし、糖負荷試験でも、ゆっくりではありますが、遅れて出てくることがわかりました。
これだけ情報があれば、インクレチン治療に変更ができます。そうすれば、低血糖を起こすことがなくなるので、本人も楽になります。現在、BOTと言って、インシュリンの基礎分泌の補充だけ行っています。一日4回だった注射は、1回で済むようになりました。ご本人も面白い方で、食べ方や食べた内容によって、血糖がひどく変動することをご存じだったので、自分で食べ方を変えられていました。
一日2食にして、間で少し間食を取るようにしました。勝手にそうしましたが、いいでしょうかと言う質問でした。ところがこれが理にかなっているのです。糖尿病の方は、3食食べると前に食べた食事による血糖値が下がりきってないときに、次の食事が始まります。そのせいで、段々高い血糖値になってしまうのです。ところが、2食だと前の食事による血糖値が十分下がってから、次の食事が始まります。大変理にかなった方法なのです。
基礎インシュリンは10単位ととても少ない量なのに、ご本人の機転がよかったために、空腹時血糖は、130代に収まったのです。本当にすごいことです。血糖値の不安定さから起こっていた起立性低血圧も、起床時だけに減っているそうです。
そういえばと、昨日はなされたことがとても面白かったんです。インシュリン治療が始まったのは、足の親指が黒くなったから壊死になってるとの判断で、切り替わったそうです。ところが、ご本人が、あれは壊死ではなかったといいます。当時、犬を足でけっていたそうです。それで、血豆ができていたんじゃないかと。黒いものは、何日かしてぽろっと取れたそうです。
もし、壊死であれば、インシュリンに切り替えても治るはずがありません。だって、すでに腐っていると言うことですから。治ったこと自体が、判断ミスだったと言えるでしょう。でも、早めにインシュリンを使いだしたことは、結果的にはよかったと思います。当時はインクレチンが開発されていなかったのですが、今ならインクレチンが使えますから。。。
医者任せの医療ではなくて、病状を一番よく知っている患者参加型の医療、それが功を奏した例だと思います。これから徐々にではありますが、リハビリをして歩けるようになっていただきます。彼にはまだしなくてはならないことがたくさんあります。寝たきりにはさせられないのです。